負債評価益は正当な利益

前回は資産や負債を時価評価する理由、株式会社の意義などについて簡単にまとめました。今回は「負債評価益」の持つ意味についてまとめます。

上の図は前回挙げました負債の時価評価後の貸借対照表です。

貸借対照表の意味は、右側が「誰からどういう形で資金を調達しているのか」、左側が「調達資金がどういう形で残っている(運用している)のか」を表しています。また、右上は「他人資本」つまり株主以外から調達した分、右下が「自己資本」つまり株主から調達した分+株主のモノである累積の利益です。

そして、資産だけでなく負債も「時価評価」しているということは、他人資本にあたる社債について社債権者の持ち分と同額の金額が記載されていることになります。資産総額から負債総額を引いた残りの「純資産額」=株主資本=自己資本についても、適正な「時価」が表示されていることになります。全ての項目において適正な時価が表示されているということは、それらをすべて同額の現金と交換できる、ということになります。つまり、社債=社債権者の取り分として記載されている金額が200,000から22,088減って177,912になった。その減った分22,088が純資産額=株主の取り分に移動した、ということになります。

社債の時価評価による評価益は、「買入償還」による自社債の安値買い取りによる差益と同額です。安値になった理由がその会社の業績の悪化によるものだとしても、社債権者から安く自社の社債を買い戻すことができることには変わりがありません。そしてその利益は結局のところ「株主のモノ」になります。社債償還益を根拠とする負債評価益についても同様のことが言えます。つまり、負債評価益は株主にとって何ら疾しいところはなく、株主にとっての正当な取り分の増加ということができるはずです。

もちろん「経営者」にとっても「株主」にとっても自社の業績が悪化したわけですから喜ばしいことではありません。ただ、資産と負債の時価評価をすることによって計上される「負債評価益」については経営者と株主とではその数値の受け取るべき意味合いは変わってきます(相反するとも言えるかもしれません)。

それと、あんまり負債評価益とは関係がない気もするのですが、資産・負債全てを時価評価すれば、貸借対照表の状態が「債務超過」に陥る、ということすらあり得ないことになります。どうしてかというと、

  • 負債の時価は資産の時価に連動する
  • 株主はそれぞれが出資した金額以上の責任は負わない。

この二点に拠ります。負債の時価は資産の時価と連動して上がったり下がったりすることになるため、資産額がゼロになるまで目減りしたとしても、それ以上に負債が減ることはありません。また、たとえ全ての資産を売却し負債の返済にあてたとして、それでも100兆円の残債があったとしても、法的には株主は一切の責任を負わない。この100兆円はどうなるかというと、「踏み倒す」。つまり、貸借対照表の右上の他人資本が全額返済できなくとも、株主は保有する株式が塵と化すだけで済む。残った分は債権者に泣きを見てもらう、ということになります。

実際に「負債が減って、収益が増える」というイレギュラーな仕訳が起こることは、負債評価益以外にもあり得ます。それは「債務免除益」というものです。
多額の負債を抱え込んだ企業が、会社更生法などの適用を受けて債務の整理をするような事態ですね。債務の整理とは、要するに「借金を棒引きにしてもらう」ということです。今話題のJALの再建問題にしても、立ち行かなくなってる理由は収益が悪化して、負債が返済できないほどに赤字が膨らんでいるのが原因です。債権者(銀行などの金融機関)に経営にも参画させるかわりに、債権者側で債権を放棄してもらう、ということになります。
その際に起きる仕訳は以下のようになります。

借方 借入金 ◯◯億円 / 貸方 債務免除益

◯◯億円

(負債が減って、収益が増える)

債務を免除してもらうということは、言葉は悪いですが、要は外部への「返済を踏み倒す」ということに他なりません。これは株主の側からすればその分外部に支払う金額が減ることになりますので、まさに「得した♩」ことになります。
もっとも株主はこんな状況では配当は出ません(債権者が許さない)ので、痛み分けの状態ではあるのですが。

負債評価益は、実現していない収益である点では疑問もあるのですが、株主にとっては「正当な」利益と言えるのではないかと思います。

どうでしょう。分かりにくかったですかね?
次回は欧米と日本の会計基準の違い(負債の時価評価の有無)から、散文的になりますが総括してみたいと思います。