負債は所詮紙切れ

前回までは貸借対照表の資産の話が続いたので、今度は負債についてまとめてみようと思います。が、長くなるので負債にはこだわらずに考えてみます。

まずは貸借対照表の意味について。

貸借対照表の左側は資産、右上は負債、右下は純資産であることはすでに確認しました。表の左側が「調達した資金の運用形態」、右側が「資金の調達源泉(どうやって誰から調達してきたか)」をそれぞれ表しています。
図にするとこんな感じ↓

BSの意味

資産にはいろんな種類があります。現金預金、有価証券、貸付金、土地、建物、車両などなど。全て『カタチがあるもの』、または『カタチがあったものが権利などに姿を変えたもの(あるいはこれからカタチがあるものに変わるもの)』です。

でも。
「負債」にはただ一つの例外もなく「カタチ」がありません。言い方を変えると「全て紙切れ」とも言えます。貸借対照表の貸方(右側)項目である負債は、資金の調達元と方法を表しているだけですから、そもそも資産とは意味が違う、ということになります。
負債とか債務は「何か(借り入れの返済や契約の履行)をしなければならない義務」です。つまり、全て書面上の記録に過ぎませんし、「有形」固定負債なんてものはこの世には存在し得ません。
(注:ちなみに「誰かの資産は誰かの負債」という話は、「金銭債権」「金銭債務」と読み替えてください。でないと辻褄が合わないことになります。「金銭債権・債務」とは、「帳簿上、お金で直接回収できるもの」で、棚卸資産の場合には直接現金に変わるわけではありません。棚卸資産は費用に変わるだけで、売上を計上することでその代金がいずれ現金になるものです(言い回しが苦しい。。。))

負債の種類には資産と同様にいろいろありますが、項目の意味は「資金の調達方法」とか「外部に払わずにいる根拠」を表すものと考えていただいて構いません。具体的な並びは以下の通りになります↓

負債の部並び

並びのルールは何と言ったらいいんでしょう。上ほど「確実にまたは早期に資金が流出する(拘束力が高い)」と言えると思います。
例えば、一番上にある支払手形。これはその企業の仕入れ代金の代わりとして「◯月◯日にこの金額が現金化できます」と約束して相手に渡すものです。その期日になると自分の口座から預金が引き出されて、振り出した相手方の口座に振り込まれる仕組みになっています。つまり受け取る側から見ると「受取手形」(資産)に相当します。
万が一、その期日に自分の口座の預金残高がゼロならば、相手方の口座には当然資金が移動しません。当てにしていた債権者側では大混乱が起きます。「手形が不渡りになる」というやつですね。場合によってはこれによって連鎖倒産が始まります。こうした混乱を防ぐために手形を発行するにあたって法的な拘束力があります。
この「不渡り」を短期間に二度やらかすと、銀行を通じての取引ができなくなります。手形決済はもちろん、預金、借入、外国為替、すべて機能できなくなりますので、「事実上の倒産」となります。「海外送金できないトヨタ」をイメージしていただければ分かるかと思います。何よりも優先的して支払わなければならない(でないと会社が潰れる!)という意味で一番上に来ています。
それと比べると二番目の買掛金(仕入代金の未払額)は、単なる相手方との約束の上で支払い期日を決めているだけなので、場合によっては数日延ばしてもらうこともできますし、極端な話、黙って支払わずにいても銀行取引ができなくなることはありません。もちろん、相手との約束を守らなければ取引してもらうことはできなくなります(仕入れができない)。営業していく上でそんなことやらかせば、「次はないと思え」ということになりますので、比較的優先順位は高くなります。

下の方の「社債」は、償還期日(社債の満期日)になると債権者に対して額面金額を支払わなくてはなりませんが、相手方が同意してくれたり他の人が買い取ってくれたりすれば支払期限を先送りすることができます。いわゆる「繰り延べ」とか「ロールオーバー」と言われるものです。
日本の国債なんかはこれを繰り返して行くことができます。確実に利払いが見込まれるので人気商品(つまり金利が低い)だからです。もし債権者側が「ここでロールオーバーしたら次の償還期日までには潰れてしまって、元本も利息も回収できないかも」と考えるような危険な国債であれば、繰り延べはできない→支払わなくてはならない→支払えない=デフォルトすることになります。
従って、社債は支払手形と比べるとある程度資金を固定化できる要素を持つ、ということになります。

さて、そんなこんなで貸借対照表の意味は、「その会計単位の財産状況を表すもの」ということになります。つまり以下のような貸借対照表↓

財産状況

があったとして、「財産状況」はこう説明できることになります。

外部に社債を発行して200,000、元手と儲けにより100,000の資金を調達している。

運用形態は日本国債が150,000、企業Aの有価証券が150,000である。

まあ、表そのまんまですね。

ところが。
この貸借対照表、上の通り表向きは「財産状況を表すもの」という定義付けが一般的になされていますが、会計学的には

「損益計算書を作成するための仕訳の掃き溜め」
「損益計算のための補助ツール」

程度の意味合いしかないとされています。なんか、扱いがひどい気もしますが。

仕訳が絡んでくるので細かい話は省略しますが、いずれにしても「財産状況を表すものと言い切るには内容が中途半端」と言われています。

それはなぜか。

日本の会計基準は資産である「有価証券」を除いて、資産負債ともに「取得価額ベース」で貸借対照表を作成することとされています。つまり資産・負債には資産である有価証券以外は「時価」が反映されていません。このため、正確な意味での「財産状況」を表しているとは言えないことになります。一つ上の表を見てみると、借方(資産)に記載されている「国債」と「企業Aの社債」は時価、貸方(負債)に記載されている社債は「取得価額」となり、アンバランスと言えます。

こうした「取得価額主義」を採用している理由はいろいろとありますが、財務諸表を保守的に見る(時価「評価」という未実現性を排除する)というのが大きな理由のようです。また時価評価をするということは会社を売り買いすることが前提としてあるため、欧米をはじめとした諸外国では採用されています。日本ではまだそこまで進んでいない、ということです。これについてはいずれ考えてみます。

ちなみに取得価額とか時価について、会計学的にはものすごくめんどくさく意味付けされてたりしますが、こんな感じの意味合いとして捉えていただければokです↓

取得価額
・・・購入した時の金額
時価
・・・誰かがその時点でそれを買おうとした場合の金額

まとめ

貸借対照表の意味は右側が「誰から」「どういう手段で」お金を調達してきたか、

左側が「どういう形で運用しているか(資産として残っているか)」をそれぞれ表す。

ただ、金額については基本的に「取得価額ベース」で記載されているため、

記載されている数値は「状況」の説明がされている、とは言えない面がある。

次は上に出てきた「社債」、「時価(市場の価格)や金利の決まり方」について考えてみます。

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負債は所詮紙切れ」への6件のフィードバック

  1. なるほど!
    聞けば聞くほど面白いです!!
    このようなそもそもの話は大切なのに全然知りませんでした☆
    社債、市場価格、金利、本当に興味深いです♪
    楽しみにしています。^^);

    • >そもそもの話は大切
      そうおっしゃっていただけるとたすかります。ある意味「宇宙ができて160億年、地球がでk(ry」というのと同じで煩わしいかなー?と思ったもので。

      金利とか債券の市場価格の話は、それこそ「そもそも論」が多岐に渡るのでまとめにくいところがあります。今後ともご指導いただければ幸いです。

  2. 今さらながらコメントさせていただきます。
    というか、順々に読んでますので、読み終わって、さらに自分の中で理解できた時点でコメントしますので、まったく空気を読まずのコメントですw

    くしゃぶさんと同じく、私も『そもそも』が抜け落ちているんですね。
    三橋さんの著書などで勉強したとしても、そもそもがないので、なんとなく分かったような“気になっている”というのが、私の状況だと思いました。
    またまた勉強になりました!!
    だからこそ【バランスシート不況】ができるのだなぁと理解できました。

    ただ、ちょっとだけ質問してみたいのですが、負債の流動性についての部分
    流動性が低い≠リスクが低い という事は、本文中で分かったのですが、流動性が高い負債と、流動性が低い負債を比較した場合、流動性が高い負債のほうがリスクが高いように思うのですが・・・違いますか?

    これは銀行の企業負債リスク判断に影響するような気がしてます。
               ↑
    そもそも、そんなのあるのかも知りませんがww

  3. お子さんは具合どうでしょう?ここ数日いきなり寒くなりましたのでお大事に。うちは日曜に七五三なのでそれまでは熱出すなよ~って感じですね。

    さて。お尋ねの件ですが、負債の流動性の高低とリスクとは直接は関係ありません。ある程度の規模になれば、というかある程度の規模になるには負債はどうしても必要になってきます。売上が増えると必然的に「今月分は翌月末に払います」みたいな売掛金(売上の未回収額)が増えてきます。これはもう避けられない。ということは、仕入代金の支払いも後にずらさなくてはならない。だって売り上げてもお金の入金は来月なんだから仕方ないですよね?要は金額の大小や上下の多寡よりも、資産と負債のバランスが大事、ということです。リスクと関わるとすれば、前にどこかの記事のコメント欄で書きました「当座比率」辺りに関わってきますね。業種によって流動負債と当座資産とのバランス(当座比率)って面白いくらいに全然違うんですよ、これが。

    例えば人材派遣会社。あれは週払いとか日払いとか短いサイクルで現預金が出て行きますよね。でも派遣先からの売上の入金は翌月くらいになります。すると支払いがどうしても先行する形になります。派遣社員の給与が滞ることがないように業法で財務構造の基準があるようですが、やはりこれをカバーするには短期の借り入れを短いサイクルで繰り返すしかない。
    派遣業と対照的なのがコンビニですね。ほぼ全て売上は現金で回収しますが、仕入代金はひと月分をまとめて翌月くらいに支払います。売上即入金なので短期の資金繰りはあまり厳しくはなさそうにも思えます。でも、売上の月ごとの浮き沈みが激しいと、売上が下降傾向の時期に遅れてきた支払いが過大になることは考えられます。

    何かまたいろいろ書き過ぎましたがw

    • ありがとうございました。
      そうですか、リスクは流動性が高いor低い負債で見るのではなく、資産で見るのですね。言われてみれば・・・そうですね。
      いつも通り狂っていましたw
      いつも私のくだらない質問にお答えくださって感謝しています。
      おかげで勉強になります!

      ウチの子、熱はある程度下がりました。
      インフルエンザじゃないかと、心配で 急いで病院に行きましたが、違ってホッとしてましたw

      • この話(企業には借金が必要)は信用創造のところで書いたのと違う意味ではありますけど、必然的にそうなってくるんですよね~。負債=借金じゃないですし。一段落したらまとめてみたいと思ってます。

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