簿記的に見た経済の話 <その11> 粉飾決算は誰のため?

前回は決算セールから見えてくる「在庫を抱える」ことの意味について考えてみた。今回は似た話?で中小企業でよく見られる「粉飾決算」について考えてみることにする。経済というよりも経理の話かも。

中小企業が粉飾決算をする動機は「利益が出てるように見せかけることで、銀行から融資を引き出すこと」にある。多分それ以外の理由はないと思う。大企業の場合はこれに株主や投資家が絡んで来るので複雑になるが、いずれにしても利益が出ているように見せかけて資金を調達しようとする、という意味では同じことだ。逆に「利益が少ないように見せかけるのが逆粉飾と言われるものだが、これは税金の支払い先である税務当局を騙す、つまり脱税するということになる。これについてはまたいずれ機会があれば。

前回確認した「資産が増える→利益が増える」という構図を悪用したのがよく見られる粉飾決算だ。
粉飾決算は直球で言ってしまうと「銀行を確信犯で騙すために詐欺を働く」ということだ。当然バレればただでは済まない。場合によっては貸し剥がしに遭っても文句は言えないはずだ。
やり方としてメジャーな方法は主に次の二つがある。

その1-在庫の水増し
その2-架空の売上計上
(その3として「子会社を使う」という手もあるが、似た話としてまたいずれ。)

「在庫の水増し」は前回「原価ボックス」で見た通り、期末の棚卸金額が多いほど差額である売上原価が減るので、結果として利益が残ることになる。「費用を不当に削る」ということになる。
また、「架空売上げの計上」は存在しない売上を計上するため、当然売上が増える→原価は変わらない→利益が増える、ということになる。
どちらもめでたく利益が出るため、銀行は融資をしてくれるかもしれない。

でも、粉飾決算には「騙す騙される」以前に、企業自身にとって逃れられない大きな落とし穴が実は4つある。

1.「資産は繰り越される」
2.「無い物は無い」
3.「お上は見ている」
4.「嫌なことは忘れる」

この四点について考えてみる。

1.資産は繰り越される
まず、在庫の水増しをした場合。
損益計算の面で見てみると、在庫を増やすということは原価ボックスの右下(期末棚卸高)が増えるので、確かに差額で求める当期の売上原価は減って利益が残ることになる。仕訳にするとこうなる↓

借方 商品 ◯◯円 / 貸方 仕入 ◯◯円

資産が増えて費用が減る。

ところが当期の「期末棚卸高」は翌期の「期首棚卸高」、つまり翌期の原価ボックスの左上が増える→翌期の費用が増えることを意味するので、その分翌期の利益が減ることになる。仕訳にするとこうなる↓

借方 仕入 ◯◯円 / 貸方 商品 ◯◯円

前期に架空計上した資産が減って費用が増えてしまう!
貸借対照表から見ても、粉飾決算は「架空資産」を計上することになるので、在庫が増えているのに売上げが伸びないのでは、その増加分は「焦げ付いている」と見られることになる。それはいつか消さなければならない(または消したいと思う)時が来る。借方の資産を「消す」ということは借方の費用が増えるということだから、その時は利益が減ることになる。
翌期にその費用の増加分をカバーできるほどの売上が計上できればいいのだが、たいていの場合そんな都合のいいことは起きない。財務状況を判断するための財務諸表の元になるはずの帳簿(仕訳)でウソをつく経営者が、一年二年で正確な財務諸表を見ずに悪化した業績を回復できる訳が無いからだ。しかも事は嘘をつかなければ融資が受けられない(資金が尽きてしまう)瀬戸際の状態なのだから、結局は翌期も在庫の水増しをすることになるケースが非常に多い。
これを毎期繰り返していくうちに実態のない不良在庫が資産の部に積み上がって行くことになる。実態に沿ったキレイな財務諸表にするにはどこかの時点で「損失処理」することになるが、大抵の場合それでは赤字になってしまう、という悪循環に陥っている。図にするとこんな感じ↓

在庫の水増し

売上の架空計上も問題は同じ。売上を増やす仕訳を起こす時、左側に来る科目を考えなくてはならない。仕訳にするとこうなる↓

借方 売掛金 ◯◯円 / 貸方 売上 ◯◯円

資産を増やして収益を増やす、ということになる。
たいていの場合売掛金(売上の未収入金)で処理するが、科目が何であれ結局は次期に繰り越されることには変わりない。損益計算書は決算が来れば「リセット」されるが、貸借対照表にはいつまでも回収されない資産が残り続けることになる。そして会社の実態を把握するためにいつかは「損失処理」をしなくてはならない日が必ず来る。
「資産(というより「課題」)は繰り越される」というのはこういうことをいう。

2.無い物は無い
銀行は融資をする時はその貸出先は「利益が出ている=返済能力がある」と考えている。でも、粉飾決算をして融資を受けた企業は本当の利益はもっと少なかったりマイナス(赤字)だったりする。ということは、実際には返済能力がほとんどないのに分を超えた借り入れをしてしまう、ということになる。
お金を借りるということは、目的は何であれ収益によって得た手持ちの現預金では足りないから借りるのだ。利益が出なければ手許の現預金は増えない。増えるとすれば誰かから借り入れるしかない。
当然、融資を受けたからと言って一朝一夕には収益構造は変わらないはずだ。利益がただでさえ出てない状況で追加の借り入れを起こせば返済資金の確保はさらにシビアになる。「返済できること」が前提で貸し出されるため、借入れの返済期日は毎月容赦なくやって来る。根本の収益構造が変わらない限り、また粉飾をして借り入れてその資金で返済をして、、、のループになる会社も少なくない。
「無い物は無いので払えない」ということになる。

3.お上は見ている
粉飾決算で損益上の利益を捻出したとしても、税計算においては考慮されない。決算後2ヶ月以内には納付しなくてはならないのは世の定めだ。
もちろん粉飾決算をする企業は、利益が出れば納税しなくてはならないことは百も承知で、中には税務調査の際に「うちでは粉飾して税金は納めてますよ(=文句あるか?)」と豪語する社長さんもいたりする。だけれども、上で見たように資産が繰り越される罠について認識している社長さんはすごく少ない。

税務署(正確には課税当局)のすごくイヤラしい話であるのだけれども、粉飾決算をすること自体、彼らは特に何も言わない。納税してるのだから当たり前といえば当たり前だ。でも不当に税額が減るような処理をすることについては鵜の目鷹の目だ。ある意味ピンポイントでそこしか調査しない。それが調査官の仕事だから。

いつか実態を把握したいなどの理由で貸借対照表をキレイにしようと考えたとする。
架空の売上げを計上した場合について見てみると、

借方 売掛金 ◯◯円 / 貸方 売上 ◯◯円

という仕訳で架空の収益とともに架空の資産が増えることになる。通常、売掛金を損失処理する時には、

借方 貸倒損失 ◯◯円 / 貸方 売掛金 ◯◯円

という仕訳で損失処理をするが、税務上は実態のない資産を費用化する(損金計上する)ことは認められない。

会計上の費用≠税務上の損金

つまり、納税申告書を作成する際に「損金不算入」として利益に加算することになる。
帳簿の上では(税務署的には)費用処理しても構わないのだが、申告書を作成する上では同額を利益にプラスする処理をしなくてはならない。つまり、費用は増えるけど税計算の元になる利益(所得)は費用処理してもしなくても変わらない、ということになる。損益計算書の利益がこの処理によってマイナスになったとしても、税金は負担しなければならないこともあり得る。

そしてこれからが税務署の恐ろしいところだが、たとえこの「損金不算入」という処理をしたとしても、それには「理由」があるはずだ、と考える。恫喝レベルのこじつけでしかないのだが、ダメ元でこんなことを言ってきたりする。

...元々架空の売上げを計上した際に「売掛金」で処理をしていたようだけれども、実際には現金で収入していたのではないか?これをこの度架空の売掛金の損失処理として費用計上しているけれども、実は社長さんが懐に入れたんではないですか?だとすると、役員に対する賞与として損金不算入の処理は正しいけれど、社長さんにとっての所得税の源泉徴収漏れということになります。会社は所得税のほか、不納付加算税、重加算税、延滞税云々を納付していただくことになります。...

これだけなら調査に立ち会う税理士が一蹴するだろうけれども、取引先絡みの弱点を発見されて「それがダメならば反面調査(取引の相手側への調査)に行ってもいいですか?」と究極の選択を迫って来たりする。
相手側に調査する際に対面調査であることを税務署が公言するとは思えないが、取引上の信用が傷付くことを恐れて泣く泣く「要求」を飲んだりする。相手が調査馴れしていない、新規の顧客を紹介くれるようなVIPな個人の場合には尚更だ。

少し極端な話ではあるが、お上は架空資産を簡単には「費用化」させてくれない、ということだ。
(ちなみに「粉飾してます」などと言う社長さんは、後で会計事務所の担当者にそれはもう怒られます。)

4.嫌なことは忘れる
「嘘も百回言えばホントになる」という言葉に見られる通り、過去に粉飾をして利益が出ていた場合でも、その利益は粉飾によるものであることを経営者自身がいつの間にか忘れてしまったりする。不思議といえば不思議だが、これは実際によくある話だったりもする。
原因は恐らく、損益計算書は毎年リセットされるが貸借対照表は延々と繰り越される。にもかかわらず、その見方が分からない経営者が意外に多いからだと思う。毎期粉飾を繰り返した挙句に「うちは今まで赤字を出したことがない」と胸を張る社長さんもいたりする。ハッタリでも何でもなく、単に忘れているだけだったり、粉飾決算の意味を理解していないことすらある。赤字になりそうだと経理担当者を叱りつける経営者もいるそうだけれど、筋違いもいいところだ。
10年以上も粉飾を繰り返した結果、過去からの繰越で構成される貸借対照表が実態とかけ離れたものになってしまい、いついくらどういう処理で粉飾をしたのかもはや何がなんだか分からない、というケースはよくあることだ。その頃になって気付いてもたいていはもう間に合わない。10年分の「不良債権処理」をしない限り、実態を正しく分析することはできない。当期は何とかなっても粉飾の内訳が分からない以上は前期比較など数年後でないとできない。帳簿でウソをつく、というのはこういう意味もある。

1〜4をまとめると、粉飾決算はある種の「麻薬」みたいなもので、その時はよいけれども『必ず』その皺寄せが付いてくる。利益を無理矢理出すということは結局のところ「資産を無理矢理増やす」ということになるので、問題を先送りしているに過ぎない。
帳簿を丁寧に正しく記帳しないということは、帳簿から最終的に出来上がる財務諸表がメチャクチャになるということなので、「どうやったら儲かるのか?」とか「何が問題なのか?」とか分析しようがないのだ。

当座の資金がどうしても必要だったとは言え、人を騙して自分を騙して、結果的に自らの首を絞めることになるのは、再起の道を自らの潰している意味でもとても痛ましいことだと発見するたびに思う。

世の中には帳簿管理のエキスパートとよばれる人がいる。公認会計士、税理士、中小企業診断士などだ。それぞれ帳簿と言っても視点が違う。中小企業の場合には税務処理の都合もあるので税理士が粉飾決算の意味をキッチリ指導しなければいけないはずだが、残念ながらそういう能力に欠ける人が多いようだ。「顧客のために」粉飾を許してしまう市井の税理士もいたりする。
ホントは真逆なのに。。。

貸借対照表の資産についてはいろんな面で見てきたので、今度は「負債」について見ていきたいと思う。

 

 

<追加>

法人税の計算の仕組み(一部)です↓

法人税の計算は、損益計算書の「(税引後)当期純利益」からスタートします。

ご参考までに。。。

法人税別表4

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簿記的に見た経済の話 <その11> 粉飾決算は誰のため?」への5件のフィードバック

  1. 生々しい現場の様子が手に取るように浮かび上がって 非常に面白いです!
    特に税務署がどのように苛めるのかが秀逸でした☆
    「負債」もよろしくお願いします。^^);

    • 何度か税務調査に立ち会ったことがありますが、世に言われるような野獣のような人には巡り合ったことはありません。みんな紳士「的」です。でも、例外なく虎視眈々と目を光らせています。
      上の「恫喝」の件は意訳してますが、ホントはもっと遠回しに外堀を埋めてから切り出してきます。確信を突かれてからが神経戦の始まりだったりもしますw

  2. 4の「嫌なことは忘れる」というのは面白いですね。
    “人間らしさ”が現れるうえに、しかも少なくないというところw
    脳が持つ最高の機能は「忘れる」です。と聞いたことがあります(どこでかは忘れましたw)
    でも忘れないように帳簿つけてるのですものね。

    ちなみに私は理解するのに数日かかりました。(まだ完全ではないということは置いといて・・・)
    他の方は、すんなり理解されているようで、さすがだなぁ~と思っちゃいます。

    もし私が同じ記事を書いたら、①~④を4日間にわたって書きます。
    これだけの量の内容をまとめ、記事にするのは かなりの労だと思います。
    私もブログを書いていて、かなりしんどい作業だというのを知りました。
    もしよろしければ、ひとまず書いて、それを数回に分けてみるというのはどうでしょうか?
    私の意見を言わせて頂ければ、今回の①~④をそのままタイトルにして、内容はそのままで分けるだけで十分記事になる気がしています。

    私は一つの記事を数日かけて読むので、一度のアップでも、数回のアップでも楽しいですが、monotoneさん自身のモチベーションがさがってしまいますので。

    モチベーションが下がる → アップしない(頻度が下がる) → さみしい(私&読者)
    つい一日では“もったいない”なんて考えちゃうんですよねw

    • >「粉飾したことを忘れる」って、ホントなんですよ。粉飾してでも利益が出れば会社は安泰、と考えている節があるんですが、そんなことはあり得ないんですよね、残念ながら。

      UPの方法、ご指導ありがとうございます!「分けて書いていく」というのは(特に)読む方も負担が減りそうですね。ほとんど書いたら書きっぱなしなのですが、たまに読み返してみるとあまりのびっちり加減に自分で読むの嫌だ...(--;)と思ったりもしますしねー。小出しにするというか、読みやすいようにしていく工夫は必要ですね。

      書くこと自体は時期的なこともあり、今のところあまり負担とは感じてなかったりします。書くのはたいてい仕事中ですしーwwただ、来月あたりからぼちぼち夏の試験まで忙しくなるので頻度は落ちるかもしれません。というか、忙しくならないとヤバイw

      なんでまとめて書くかというと、客先で「オセロ」を想定して頭の中を整理しながら書いてるから、書き出したら止まらない、というのが正直なところかも。「理屈っぽい上におしゃべり」な性格が丸分かりってことです。オセロ云々いうくせに文体が堅いんですけどね。
      なので、「分かりにくい!」とか「どういう意味だこれは?」とかあったらどんどん突っ込み入れていただけるとすごくありがたいです。ちなみにあんまり詳しくないのでガンダムには例えられません。

  3. ピンバック: 「お客さん紹介します」の裏側(その7) « ELG35's Blog

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